危険負担
(債権者の危険負担)
第五百三十四条 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。
2 不特定物に関する契約については、第四百一条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。
(停止条件付双務契約における危険負担)
第五百三十五条 前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。
2 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。
3 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。
解説
双務契約において、契約締結後、履行完了までの間に、一方の債務が債務者の責めに帰すことのできない事由(不可抗力や第三者の行為など)によって、履行不能となり消滅した場合に、他方の債務がどうなるのかという問題である。
ここも条文がながくややこしいのでさらっと一読して、内容は下記で押さえてもらえばよい。
危険負担とはその名のとおり、対象物のリスクをどちら(たとえば売主と買主の)が負担するのかということである。いずれにせよどちらかが負担するしかないので、国によってこっちとかあっちと決めている。債権者(買主)が負担するとするのを債権者主義といい、債務者(売主)が負担するとするのを債務者主義という。
わが国では、原則は債務者主義であるが、特定物(宅地建物はこれにあたる)については債権者主義をとっている。
要するに、契約締結後に地震などの不可抗力で、売買の目的である建物が全壊したなら、売主は債務を免れ(全壊した建物を建て直して引渡しとか、しなくてよい)、一方で買主は代金を全額払わなければならないわけである。減額請求などできないので注意。
契約時点で焼失していた建物の売買の場合、原始的不能により契約無効であるから危険負担(債務不履行も)の問題は生じない。
履行遅滞中の建物の不可抗力による滅失の場合、危険負担ではなく債務不履行(履行不能)の問題となる。
535条、たとえば「海外転勤が決まったら」などといった停止条件付の建物売買契約で、条件未成就のうちにその建物が不可抗力で滅失した場合、債務者主義すなわち売主の負担となる。ただし、一部が壊れた場合(毀損)には債権者主義すなわち買主の負担となる。
危険負担は任意規定なので、特約で排除することができる。余談だが通常、建物売買では移転登記までは売主業者が危険を負担するとする特約を結ぶのが一般的であるようだ。