契約締結上の過失・契約準備段階の過失
まず契約締結上の過失について例を挙げて説明する。
Aは所有する建物の売買契約をBと結んだが、契約時点には、すでにその建物は火災で滅失しており、そのことをAは過失により知らなかった。ところでBは代金支払いに当てるため、自分の土地に抵当権を設定して銀行から借入れるなどの準備をしていた。
Bとしては、このような準備にかかった費用についてAに損害賠償を求めたいが認められるか?
まず、契約時点で売買の目的物である建物が存在しないから、これは原始的不能であり、売買契約は無効である。すると、AB間になんら債権債務関係はないから、債務不履行責任を追及して損害賠償を求めることはできない。
そこで判例は、「契約関係に立つ当事者には、お互いに相手に不測の損害を与えないようにする信義則上の注意義務が存在し、これに違反して相手に損害を与えた場合には損害賠償義務を負う」として、Bの請求を認めるのである。
次に、契約準備段階の過失。
上記のように「契約締結上の過失」は無効とはいえ、いったん契約まで至った場合であるが、これがさらに拡張され、契約まで至らなかった場合にも、同様の責任を認めるのが、「契約準備段階の過失」である。
例えば、マンション業者が、見込み客のリクエストにしたがって、設計変更・工事の手直しまでした(お金もかかった)のに、結局契約締結に至らなかった場合に、これを認めた判例がある。