時効の利益の放棄
第百四十六条 時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。
解説
この規定がないと、債権者は債務者に事前放棄を求めることになるのが当然であり、そうなると時効制度の趣旨が没却してしまう。
時効完成後に放棄をすることは145条の趣旨にも合致し、有効である。
放棄の効果は相対的であり、放棄したものだけが援用権を失う。たとえば、主たる債務者が放棄をしても、その保証人や物上保証人は時効援用できる。
なお、前条のところでふれた「時効完成後の債務承認」と、この時効利益の放棄がごっちゃになりやすいので、べつものと理解しておくこと。
時効利益の放棄は、時効の完成を知ってなすものである。したがって、時効完成後に、それを知ってなす債務承認は、時効利益の放棄となりうる。
一方、時効完成後に、それを知らずになす債務承認は時効利益の放棄にはならない。しかし、時効完成後に債務承認があった場合に、時効の援用の認めるのは、前述のとおり債権者の期待を害することになるので具合が悪い。そこで知っていようが知らなかろうが「時効完成後の債務承認」をしてしまったら、信義則上時効の援用を許さないことにしている(前条であげた判例)。