詐欺又は強迫
第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。
解説
心裡留保、虚偽表示、錯誤は、表示に対応する意思が存在しないとして、「意思のけん欠」といわれる(そして有効・無効のはなしになる)のに対して、詐欺や強迫は、意思の形成過程に瑕疵があることから「瑕疵ある意思表示」とよばれ、取消の対象となる。
民法は、騙された人間にはいくばくかの落ち度がある(欲ばるからとか)が、おどされた人間には全く落ち度はない(チキンなのは罪はない)と考えているらしい。そのため、2項に見えるように、第三者による詐欺に規定はあっても、第三者による強迫の規定はない(第三者による強迫の場合も無条件で取消せる)。また3項の第三者保護規定も詐欺の場合だけである。
詐欺とは、人を欺罔(ぎもう)することにより錯誤に陥らせることをいう。
3項の「第三者」とは、詐欺による意思表示を前提として新たに利害関係に入った第三者をいう。
【判例】 この第三者とは、取消前の第三者であり、取消後の第三者を含まない。
取消後の第三者と、表意者の関係は177条で処理、対抗関係となる。
第三者は善意でありさえすればよい。 無過失や登記は要求されない。
強迫とは、人に害意を示し、恐怖の念を生じさせることをいう。
【判例】 おどされて完全に意思の自由を失った場合には、強迫ではなく、意思表示は無効になる。
強迫の場合は、第三者(取消前)が善意であっても対抗できる。それとは別に、取消後の第三者とは詐欺の場合と同様に177条で処理、対抗関係になることに注意。
H10問7
H14問1